働き方改革が開けるパンドラの箱

2018年6月6日、労働基準法など労働に関する8つの法律が改正されました。働き方改革の論点は、就労規則の変更や生産性向上のための設備導入、健康経営のための制度導入など単なる対策だけ、と読み違いがちです。

しかし、従業員の労働時間、休暇の問題だけでなく、勤務体系、賃金体系など企業経営に直接影響する重要な法改正です。働き方改革は、企業存続の危機に直結します。働き方改革の本質的な論点を捉え、経営理念の実現を図っていく必要があります。

まず、現在の日本の労働市場についてみていきましょう。
現在の労働市場は完全雇用です。完全雇用とは、自発的失業以外の失業者がいない状態で、求職者より求人数の方が多い状況となっています。現在の日本の失業率は、2018年5月の推計で2.2%。日本の完全雇用失業率の推定値はOECDが4%±0.3%。さらに、日本は高度経済成長からバブル景気前後の失業率2%が、ほぼ完全雇用だったと一般に認識されていることから考えると、失業率2.2%の現在は、ほぼ完全雇用状態であるといえるでしょう。

完全雇用の実感は、まず採用の苦戦から始まります。経験者はもちろん未経験、新卒も容易ではありません。よって、採用コストが急上昇します。求人業者の言う通りに広告をかけても応募がない。応募があっても面接交通費の支給目当てばかり。求人条件に合わない人材ばかり。仮に採用できても無断欠勤、急に連絡がとれなくなり無断退社していた、などの事件が続出します。最終的に、退職する従業員の数に入社を希望する求職者の数が間に合わない状況に陥ると事業継続ができなくなります。実際に、2018年7月時点でも、運輸宅配事業者を中心に従業員が確保できないことを原因とした廃業が増えています。

完全雇用では、労働者の転職が非常に容易になります。求人広告が増え、従業員の目に入りだします。転職エージェントは、転職する、しない場合にどちらがメリットあるかを従業員に合理的に説明します。(実際のメリットは、常に転職エージェントに発生します)。労働者は、基本的に現状の雇用条件が高い企業へ移動しますが、背中を押す要員がなければ実際にはそう易々とは動きません。ただし、本人の健康状態、介護や妊娠、配偶者の転勤など勤務時間、勤務地が現行の労働条件と合わない場合には、従業員は給与水準を下げて条件の合う転職を選択します。

完全雇用状態は、完全に労働者が有利です。労働者は直近の雇用条件だけを考慮するだけでなく、将来の逸失利益、特にキャリアパスと自己成長の機会について深く考えて転職活動を行うようになります。仕事のやりやすさ、達成感、肩書、給与だけでなく、定年70歳時代目前の現在では70歳までの収入計画を逆算して働き方を考えるようになります。そして、求める条件と現在の雇用条件が合わないということであれば、転職市場で時間をかけて思う通りに条件を吟味することができます。

完全雇用は、完全な労働者優位であって、企業が不利なのです。どう頑張っても平等に持っていくことが精いっぱい。これまでの労使関係とは異なるということを理解する必要があります。


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