働き方改革が開けるパンドラの箱

完全雇用という日本にだけ存在する特殊環境の中、2020年4月1日(中小企業では2012年4月1日)から働き方改革関連法案の成立によって、雇用環境が激変します。

まず、働き方改革関連法案についておさえていきましょう。

①残業時間の上限を罰則付きで規制

・最大年間720時間以内

・月100時間未満(休日労働含む)

・2~6か月の平均を80時間へ

②割増賃金率の猶予措置廃止

・残業60時間を超えた場合にかかる割増賃金率50%の猶予措置を廃止

③有給取得の義務化

・有給休暇が年10日以上の場合、

 年5日の取得を企業に義務づけ

④高度プロフェッショナル制度の創設

・高収入(1075万円以上)で専門知識(課題解決型開発提案業務を除く)を持った労働者本人の同意があれば、企業の勤務時間規制から除外

⑤同一労働同一賃金の実現

・雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

・不合理な格差是正を求める裁判のため、根拠法を整備

 

一般的に、もっとも重要な改正は残業の制限と言われています。これまで労使間で合意すれば、36時間まで残業させることができましたが、36時間という制限なく働かせても罰則はありませんでした。働き方改革では罰則付きとなったため、残業が制限されます。本当に残業の制限だけに注意していればよいのでしょうか?

働き方改革関連法案の背景を検証してみましょう。

現在、日本のGDPは世界第3位。しかし、GDPを就労一人当たり数で計算すると世界50位程度に落ちてしまいます。つまり就労者の数が多いためまだ日本のGDPが維持できていることがわかります。

実際に、日本の人口は減っている一方、就労者は微増しています。これは定年を迎えた団塊の世代と女性の復職による就労が増えたためと推測できます。しかし、これは短期的な結果であって将来においては就労者の増加は期待できません。

一般的に、高齢社会を超えて人口減少社会に移行しようとしている日本は終焉を迎えると言われています。しかし、まだまだやりようはあります。

合理的に、人口減少社会に陥った日本がGDPを維持拡大しようと考えた場合、もっともシンプルかつ効果的な施策は以下の4つの施策の実行です。

  • 大企業が抱える人材を大規模に放出し、他業界・企業へ人材を供給
  • 事業構造が劣る中小企業を廃業させ、生産性の高い企業へ人材を再配置
  • IT、IoTを中心とした生産性を高める効果がある産業への人員配置の強化
  • IT、IoTを中心とした専門性の高い外国人雇用による不足人材の補強

これを実現するためには、雇用の流動化で生じる非自発的失業者に対する受け皿として、IT、IoTを中心とした生産性を高める効果があるITとIoT設備投資に対応できる人づくりを行う必要があります。うがった見方ですが、すでに働き方改革を通じて、官邸、厚生労働省、経済産業省が着々と準備している姿が透けて見えるのです。

  • 官邸は雇用の流動化の促進により格差を是正し、GDPの維持・拡大という方針を出し、
  • 厚生労働省は非自発的失業者に対する雇用の受け皿の整備を目指し、
  • 経済産業省は受け皿としてITとIoT設備投資、人づくりによる生産性向上を目指しています。

具体的に、首相官邸ホームページによれば、働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいきます、と言っています。

厚生労働省ホームページによれば、我が国が直面する「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」に対して投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることを目指している、と言っています。

経済産業省ホームページによれば、人づくり革命と生産性革命により力強い賃金アップと投資を後押しする、と言っています。今後人口減少傾向が一方的に強まるにつれ、GDPを維持するためにはどうしても生産性を向上させなければならず、経済産業省はこの解決手段としてITとIoT設備投資を進める、と言っています。

法規制と完全雇用により、雇用はどんどん流動化していきます。生産性の低い業界、業種から高い業界、業種への人材の流出は政策的にも社会的にも避けられない状況だということは間違いありません。

勝ち残るためには、強靱な事業基盤を整備していく他、手段はありません。